HKT48 × 大人のカフェ コント劇『セカダツ 世界一明るい脱獄のススメ』

 

 

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 完全にネタバレしています。

 

 

 HKT48大人のカフェによるコント劇『セカダツ 世界一明るい脱獄のススメ』を観ました。自分的には去年のイムズホールでの『恋のストラテジー!』に続いて2本目のコント劇でした。

 

 

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 セカダツの大まかなストーリーとしては、アメリカの刑務所を舞台に、無実の罪で投獄された坂口理子さん演じるキョーコ・シラトリが紆余曲折を経て脱獄出来るのか!? という話です。その合間に中短編のコントが挟まれます。主演は坂口理子さんで、他のHKTメンバーは山内祐奈さん、豊永阿紀さん、今村麻莉愛さんと川平聖さんでした。坂口さんがとにかく頼もしく、伊達にアイドル10年やってないぜといった貫禄がありました。他のHKTメンバーだけでなく、大人のカフェのおじさん3人も従えたかのような立ち振る舞いは、旅芸人一座の女座長感がありました。そのまま九州の温泉地を巡業してほしい。坂口さんはめちゃくちゃポジティブでアメリカンなキョーコ・シラトリも適役でしたし、コントでのちょっと肩をすぼませ気味な役も哀愁があって素晴らしかったです。何を演じても上手いし、彼女なら大丈夫という安心感がありました(本人は本人でそれなりの緊張はあったと思いますが)。

 

 坂口さんは『次の会議』の社員役において、大人のカフェ3人の中に自然に溶け込んでいて素晴らしかったです。私の好きなシットコムみがあって、この4人でもっとたくさんのコントを観たくなりました。自分はあまりお笑いに明るくないのですが、過去に見ていた数少ない番組のひとつに、10年ほど前に放送されていた『ウレロ☆未確認少女』があります。ウレロは劇団ひとりバカリズム東京03早見あかりさん(推し)によるシットコムでしたが、『次の会議』はその番組と似たような雰囲気を感じました。おじさん数人と女性一人という構成において、坂口さんが的確な立ち振る舞いを演じていて、その場にとても馴染んでいました。飯野さんとのやりとりの間の測り方が絶妙で毎回笑ってしまいました。

 

 話をセカダツ本編に戻しますが、今回の公演は2パターンあり、自分は計4公演を観て、Aパターン1回、Bパターンを3回観ました。Aは初日にやったパターン、Bは千穐楽にやったパターンという認識です。何故か取っていたチケットはBパターンばかりでした。

 

 どちらのパターンも好きで、どちらもそれぞれの良さがありました。Aパターンは最後の空気感が好きです。いかにもアメリカっぽいドタバタな雰囲気で話が進んでいき、Netflixのドラマだとしたらこのまま順調に第2シーズンに突入するんじゃない? と思わせたところで、最後に突然一昔前の民放2時間サスペンス的な湿っぽい空気になる急激な変化が好きです。急に日本の湿度の高い空気が会場に満ちてきて、異国の地からいきなり慣れ親しんだ土地に戻されて、ホッとしたような感覚がありました(とここまで書いて、初日公演の記憶はほとんどないことに気付きました。うろ覚えです)。

 

 BパターンはBパターンで綿密に作り込んでいる作り手側の気合いが感じられて好きです(Aも作り込んでいたはずですが、初日しか観てないのでもう覚えてない…)。様々なコントをやってから、それら脱獄とは無関係だと思われたネタが、パズルのピースがパチっとハマるようにエンディングで収束する様は観ていて爽快でした。

 

 舞台となる刑務所「サンズリバー刑務所」に関して、初日を観たときの空耳がひどかったんです。何度も「サンズリバー」と呼ばれる度に、それがルー語的な「三途川」だとしか思えなかった。初日になんとなく引っかかった空耳ですが、翌日Bパターンの最後を観て、やっぱり「三途川」だったんだと得心が行きました。だとするとサンズリバー刑務所から脱獄することは三途川を渡らないことに繋がるので、話の流れ的に筋が通ります。勘のいい人なら刑務所名が発表された時点でわかりそうなネタですが、鈍感な自分はBパターンを観るまでわかりませんでした。

 

 作品中でキョーコ・シラトリも言っていたように、脱獄テーマの映画は古今東西たくさんあり、この公演でもそれらがオマージュされています。山内祐奈さん演じるFBIのクラリス・スカリーは、そのまんま『羊たちの沈黙』のクラリスですし、やばい上司(加賀さん)が出てくるのもそれでしょう。『羊たちの沈黙』ではアンソニー・ホプキンス演じる殺人鬼ハンニバル・レクターが狂気を放っていましたが、今作では山内祐奈さんが異彩を放っていて、無から狂気を生み出すような予測不能の鋭さがありました。初コント劇らしいのですが、物怖じしない姿勢が、わかりやすい笑いについ走ってしまう空間に緊張感をもたらしていました。『ボクサー』は圧倒されたし、日に日にやばくなっていくアドリブに、これがコント劇の魔力かと感じ入った次第です。

 

 山内祐奈さんと同様に初めてのコント劇だったのが川平聖さん。聖さんについては、私はもうチームブルーの公演でやばい奴だということは認識していたので、心構えは出来ていたはずでしたが、その予想を超えてくる名演(怪演?)でした。臨機応変にアドリブが出てくる場面もあって(調子に乗っているとも言う)、本当に初コント劇なのかと驚くこともあり、その度胸が素晴らしかったです。個人的には『ランニングシャツは黄昏色』の警官役で遠くを見つめながら加賀さんと会話するシーンが好きでした。

 

 初コント劇の山内祐奈さん川平聖さんに対して、今村麻莉愛さんの安定感は本人も自覚している通り素晴らしかったです。みんな崩れても私が支えると決意しているような守護神の雰囲気を漂わせていました。『長話の迷宮』でのおばあちゃんの淀みない長台詞はイントネーション含めて圧倒されました。落語出来ると思います。千穐楽でのアドリブで自分を褒めまくった麻莉愛さんも可愛かった。様々な劇場公演に出まくっているマルチプレーヤーぶりを舞台にまで手を伸ばして、もう本当に何でも出来るパーフェクトアイドルです。

 

 最後に豊永阿紀さんなのですが、リスベット・ヘインズというメンヘラ囚人役をエキセントリックに演じていました。そんなメンヘラよりも自己中心的なキョーコ・シラトリに振り回される難しい役でしたが、一瞬で性格が変化するところなど、さすがコント劇全通、どんな役でもどんとこいの豊永さんらしい器用さを発揮していました。コントでは『思惑病棟』の愛人役が特に好きです。『しゃーSHE♀彼女』を思い出しました。豊永さんは悪女が似合いますよね(私もアイドル豊永阿紀の手のひらの上で踊らされてる身なので…)。

 

 そして豊永さんというと、18日マチネのBパターン初日に起こったハプニングの衝撃がとにかく大きく、以降はそれで乱れた心と周囲の反応に対して、いかに冷静に演技出来るかに苦心していたように思います。飢えた獣のように他人のミスを見逃さない共演者達なので、事ある毎にイジられていて、笑いのネタとして消化してくれたのは、深刻に考えないでほしいと思わせる優しさなのかなと思いつつ、これまでのコント劇全部に出ているベテランの立場での失敗に、本人的にはかなり悔しいと想像しています。

 

 『ボクサー』と『思惑病棟』で出番を忘れるという、登場のタイミングを間違うでもなく単純に自分が出る場面を忘れる、しかも一度ばかりか二度もで、豊永さん的には散々な回だったと思います。『ボクサー』で大遅刻して登場した豊永さんの第一声「どうかした?」は、焦りを隠そうと本人は何とか平静を装いながら言ってましたが、しかしそれは完全にブーメランの台詞で、全てが神懸かっていました。私がこの世で聞いた中でいちばん白々しい「どうかした?」でしたね。どうかしてるのは豊永さんです。最後に平謝りしていましたが、こちらは大笑いさせていただきました。豊永さんほどのコント劇に慣れた人でも、まだまだ未知の笑いの領域が残っていたことに驚き、ただしこのような出来事は二度とないでしょうし、貴重な事件を体験出来たことは良かったです。

 

 確かに面白かったし、自分も爆笑してしまいましたが、本当にそこで笑ってよかったのか、という自問は今も常にあります。練りに練った脚本や演出、笑いを生み出すための言い回しや間など、時間をかけて稽古してきたはずです。この作品を作り上げるための努力よりも、ひとつの単純だけど重大なミスのほうがウケてしまうのはどうなのか。失敗を殊更に笑ってしまったのは失礼だったのではと、私も笑った側ですが思います。コント劇は何回も観るお客さんがいることを想定して作られています。だからアドリブが多い。そんなリピーターのための作品になってくると、アドリブと共に失敗もまた笑いのネタになります。そうなってしまうのは仕方ないと思いますが、今回の豊永さんに関しては、自分も笑ってしまったけど複雑でもありました。

 

 メンバー別の感想はここまでとして、ここからは私が特に好きだったコントについて書きます。それは『ランニングシャツは黄昏色』です。コントといっても、笑えるというより、切なくてとにかく怖かった。ホラーだった。ランニングを盗まれた飯野さん演じるおじさんは、自分が将来なり得るかもしれない姿を見せられているようでした。もしかしたら、気付いてないだけで既に自分もあのおじさんのように周囲から見られている可能性もあります。怖い。まじで怖い。特に唐突に発せられた「好きです」がやばいくらいホラー。SNSでよく見かける、画像と共に「好き…」とだけしか書かれていない投稿を彷彿とさせます。相手の気持ちを想像出来ずに、自分の思い込みだけでコミュニケーションしてしまうところなど自分そっくりで、頭を抱えて自己嫌悪しつつ観ていました。

 

 そのような怖い部分がありつつも、一方で良質な短編小説のような端正で穏やかな雰囲気があり、それがセカダツの様々なコントの中で特にこれに惹かれた理由でもあります。彼ら4人の間のぎくしゃくしたディスコミュニケーションであっても偶発的にコミュニケーション出来ている不思議な塩梅が、コントに揺らめく色合いを与えています。彼らの距離を隔ててのコミュニケーションのままならなさ、歪な会話が新たな物語を生むところに人生の面白さを感じさせます。加賀さんと聖さんの抑えた演技も良かった。職務に熱心でいても絶妙な加減で醒めている加賀さんの警官が、人生を重ねた上での達観を感じさせて、黄昏色に相応しかったです。聖さんの淡々とした語りもコントに合っていました。これはコントなのだろうか、と問われるとよくわからないですが、今回のコントの中ではいちばん好きでした。

 

 前回のコント劇は初めてということもあって、恐る恐る観る感じだったのですが、今回は気合を入れて初日から千穐楽まで4日連続観てしまいました。豊永さん好きですからね。毎日1公演ずつ、ABBBの順で観ました。やはり同じ作品でも毎公演違います。少しずつ笑いが研ぎ澄まされていく部分と同時に、力を込め過ぎて壊れていく部分もある。その変化を観続けていくことの良さがありました。千穐楽なんて台本無視のアドリブだらけで、完全に初見殺しなのですが、リピーターのオタクしかいないので、そのブラッシュアップは大正解です(上から目線ですみませんが)。

 

 個人的に重要な点として、初日の時に、前回初めてコント劇を観た時に感じた疎外感を今回はあまり感じませんでした。前回初めてコント劇を観た時、HKTを長く見続けてきた人にしか通じない内輪ネタが多いなと感じ、まだ当時はHKTにハマったばかりだった自分には、皆が盛り上がっている中で取り残された感覚がありました。今回は内輪感が少なかったというよりも、内輪だけにしか通じないネタがあったにしても一緒に笑えるぐらい自分もHKTのコミュニティに馴染んできたのかもしれません。私もやっとHKTのファンになれた気がします。

 

 それでも千穐楽で、豊永さん演じる過去のコント劇の人物が出てきて、ひとしきり場が盛り上がった場面では、当時のコント劇を全く知らないので、完全に蚊帳の外に追いやられてしまいました。しかし、その疎外感がなんだか懐かしく感じる気持ちも湧き起こって、やっと私のコント劇が帰ってきた感もありました。不思議な感覚です。HKTの歴史は長すぎて、このように倒錯的になって新規ファンなりの喜びを見出さないとやっていけないと感じるのは、自分が考えすぎなのでしょうか。なんだかんだ言っても、コント劇はこれまで観続けてきた人が支えてきたものなので、そのような古参へのサービスはあってもいいと思います。そこはもう割り切っています。

 

 今回もとても面白いコント劇でした。毎日毎公演新しい面白さが次から次へと放たれていて、飽きることがありませんでした。おそらくコント劇は誰が出たとしても、この5人だからこその良さがあると納得させられるような、約束された面白さがあると思います。どんな5人でも面白いはずです。その組み合わせの無限の可能性がHKT48の強みなのでしょう。

 

 そう前置きした上で、セカダツは坂口理子さんの頼もしさを軸にして、それを支える今村麻莉愛さんの安定感だったり、山内祐奈さんや川平聖さんの攻めの姿勢だったり、はたまた豊永阿紀さんの斬新な笑いへの探究心だったりと、5人がバランスよく絡み合って素晴らしい作品となっていました。もちろんそこには大人のカフェの3人の陰日向問わずの支えがあってこその作品です。本当に素晴らしい座組だと思います。

 

 4日間とても楽しかったです。観続けることの良さがありました。コント劇を観続けることは、即ち豊永阿紀さんを観続けることでもあるので、豊永さん推しとしてはとても感謝しています(もちろんラビリンス次第ですが)。このような場が定期的にあることがうれしい。今後も続いてほしいです。楽しい時間をありがとうございました。

 

 

追記

 『未ュージカル』の歌も大好きです。ずっと耳に残っています。音源化希望。もしくはあのエンディングだけでもYouTubeに上げてほしいです。

 

 

 

 

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