『ポーの一族』、より人間的なアランと、より人でない存在になったエドガーについて

 『ポーの一族』をライブ配信で観ました。素晴らしかった。千葉雄大さんのアランは明日海りおさんのエドガーと対等に渡り合っていた(と書くこと自体がいいのかどうか私は迷った)。そしてやはりというか当然というか、エドガーが異次元の別格過ぎてやばかった。

 

 私は宝塚花組の『ポーの一族』を観たことがあるのでどうしてもそちらと比較してしまうけれど、どちらも素晴らしいのは大前提として、やはり違いはあった。今回の作品は、より人間みのある作品に私は感じられた。どうしてだろうと、男役は男の俳優が演じているからかなとか、いろいろ考えたのだが、性別や年齢ではなく宝塚か否かという点が最大の理由ではないかと最終的には落ち着いた。

 

 通常の演劇は客席の私達の現実世界と、舞台の上の作品世界がある。対して宝塚は、私達の現実世界と作品世界の間に宝塚の世界がある(ように私は感じられる)。そのとき、私達は宝塚の世界を通して作品世界に触れる。それによって作品の非現実具合が増して、宝塚だから何でもありだなというふうに作品を受け入れる。

 

 その非現実度が高い宝塚の『ポーの一族』を観た後に今回のを観たので、レイヤーがひとつなくなって、より人間みを感じられる作品になったのではないかというのが自分の考えだ。

 

 その人間らしさを感じさせる代表的存在が千葉雄大さんのアランだった。花組では、エドガーに劣らずの宝塚的なアランを柚香光さんが演じていたが、今回の千葉アランは限りなく美しいがどこまでいっても人間的な存在で舞台に立っていた。それによって、明日海りおさんのエドガーのこの世の者でないような妖しい輝きを際立たせていた。美しい組み合わせだった。

 

 私は明日海りおさんのエドガーが大好きなので、配信を観ながら、ずっとエドガーの美しさにやられっぱなしだった。特にエドガーの人を想うときの表情が素晴らしく、永遠の旅の友にアランを思い浮かべたときの瞳がため息出るばかりの美しさだった。

 

 配信だと細かい表情まで見れてよいですね。東京で花組を観たときは2階席の後ろのほうだったので、表情もあまりよくわからないけれどとにかくすごいすごすぎるという感想だった。それが配信で観ると、感情の機微もよくわかって全てが素晴らしいという気持ちになった(とはいっても劇場で観るのがいちばんよいのですが)。

 

 まだ公演は続くけれど、最後まで無事完走してほしいです。素晴らしいミュージカルをありがとうございました。