ACTMENT PARK Presents『From Broadway with Love~ブロードウェイより、愛を込めて~』

actmentpark.com

 

 

 HKT48豊永阿紀さんがミュージカルに出演するとのことで観てきました。久しぶりの東京。去年の秋に東京から福岡に引っ越してから初めて東京に戻りました(出身地でもないので戻るというのもおかしいですが)。毎日通勤していた渋谷だけど、久しぶりの渋谷は緊張しましたね

 

 作品の舞台はブロードウェイ。年代はわかりませんでした。最初にアルがハリウッドでミッキーマウスが誕生したと言っていたので少なくとも1928年以降っぽい。とはいっても1930年代になると世界恐慌だし、その後は戦争です。結局いつの時代の話なのかわからないし、わからなくても大丈夫なので、遠い日本に暮らす人が思い浮かべるブロードウェイのイメージが舞台かな、と私は想像しました。また自分はノーマ・ジーン=マリリン・モンローについてはジョン・Fケネディのためにハッピーバースデーを歌った人ぐらいしか知識がなかったので調べたら、全然ブロードウェイは関係ないんですね(有名になってからニューヨークで暮らしたそうですが)。ハリウッドでモデルとしてスタートし、映画で人気が出たらしいです。彼女は名前だけを借りてきたのかも?? 何か見落としてる情報があるのかもしれませんが。

 

 ミュージカルなのでとにかく皆さんよく歌います。本当に息をするように歌う。アンサンブルまで含めてとにかく皆さん歌が上手すぎる。よくミュージカルで急に歌い出すのが意味わからないとか言われることもありますが、ここはブロードウェイなので歌わない人間は人に非ず。不自然さは全くなく歌の世界が広がっていました(単に私がミュージカルに慣れていただけかもしれませんが)。

 

 私は土日で2公演を観て、キャストもABの両方を観ました。土曜日がBで、日曜日千穐楽A。土曜日に初めて観たとき、途中までこれはマーゴの物語なんだろうなと思っていました。マーゴから見たらイヴに裏切られて、これは最終的に2人は対決するのではと私は観ながら予想していました。そしてそこにノーマが重要なキーパーソンとして絡んでいくのではないかと。所謂ひとつの大きな結末があると予想していました。しかし実際はひとつの結末に収束されることなく、それぞれの幸せの形を掴む結末があった(それを幸せと呼んでいいのなら)。ここにおいて自分は大きな勘違いをしていたことに気付きました。この作品の主役はマーゴではなかった。主役はブロードウェイ、あらゆる人の愛と欲望と夢を呑み込む街が主役ということに気付いたのです。そう言われればタイトルにもがっつりとブロードウェイとアピールされています。この視点に気付けたことで、自分の中で作品の解像度が上がりました。

 

 そもそもの私が豊永阿紀さんのファンなので、豊永さん贔屓の視点だったのですが、ノーマのストーリーがマーゴとイヴのストーリーから離れ過ぎていて、その2つがどう絡んでいくのか全然予想出来なかった。ただこれはマーゴを主役とした場合で、実際の主役はブロードウェイという街だとすると、これは群像劇であり、ブロードウェイという愛と欲望に満ちた街を描くにあたって、夢見る少女を呑み込むストーリーは街のある一面に的確に光を当てています。ブロードウェイで生きる人々の人生を描いたのがこの作品だと気付けたことで、ノーマに関して自分の中で納得出来たものがありました。

 

 そしてノーマという、田舎育ちで都会に夢見る人間を演じるにあたって豊永阿紀さんは最高に適役だったと、私は思います。私はアイドルも演劇も好きなので(演劇はアイドルほど熱心ではないにしても)、アイドルが出演する舞台も観たりします。アイドルが出る舞台の感想を書くときに毎回書いている気がしますが、そのような舞台を観るときにどうしても演じる役を通してアイドルその人を見ようとしてしまう癖が私にはあります(しかしこれも演者が知り合いとかよく知る人であればアイドル関係ないですね)。それが作品の良さを受け取りづらくしてしまうかもしれないし、そのような視点だからこその良さを見い出すこともある。

 

 夢を見続けることを諦めない、ほんの米粒みたいなチャンスでもしがみつこうとするノーマの姿には、アイドルとしての豊永さんが透けて見えました。新規のファンなので、豊永さんのことを知っているかといったら全然知らない自分ですが(というか一生わからないと思う)、まだ短い期間であっても彼女の一途さ貪欲さに出会う瞬間があり、そこに豊永さんを好きでいる幸せを感じることがあります。そのアイドルとしての豊永さんがノーマを通して輝きを放っていました。登場した瞬間からずっと、怖れを知らないノーマの輝きは豊永さんの輝きでもあった。そんなことないよ私にだって不安はあると豊永さんは言うかもしれませんが、少なくとも私から見える豊永さんはとても強い。

 

 千穐楽が終わった日の深夜のインスタライブにて、豊永さんはノーマと重なる部分があると自覚していたことを知って、それはそうですよねとなんだかホッとしてしまいました。本当に「自信のなさがチャンスをつぶすことがないように」です。名前を変えてまでして過去を捨てて、退路を断つかのような決死な気持ちがノーマを、強いては豊永さんを前に突き進めている気がします。

 

 私が好きなノーマは、トムとジェニーとのシーンで、ノーマが何を考えているかわからないとトムがジェニーに不安を告白する場面です。階段の上で未だブロードウェイの高揚感に包まれているノーマと、地に足つけて生活するために現実を見据えているトムとジェニー、その上下の対比がとても切ない。何よりノーマがトムの不安に気付いていないのが辛い。そこで何も疑わずに夢や希望を歌うノーマがあまりに眩しすぎるので悲しい未来を予感させます。残酷なんですが、明るい曲調で悲しくなるこの場面が私はお気に入りです。

 

 ノーマはニューヨークに到着した酒場のシーンも最高ですよね。自己紹介なんて『魔女の宅急便』のキキみたい。新しい街に足を踏み入れた人間特有の、不安よりも好奇心が勝る朗らかな雰囲気が素晴らしかった。その対極でもあるトムと別れることになったときのノーマもすごかった。心折れそうになりながらも自分を奮い立たせるためのノーマの歌が素晴らしかったです。後方の席からも確かに見えた豊永さんの潤んだ瞳は演技には全然見えなかった。

 

 ノーマ的にいちばんの見せ場は最後のシーンだと思うのですが、ここもすごいですよね。豊永さんの一瞬での変わり様に圧倒されましたが、これによってマーゴとイヴの世代交代もブロードウェイではよくある話として片付けられてしまう。ショーが続く限り歴史は繰り返される。まさに「Show must go on」。人が変わり血が入れ替わってもショーは続く、これこそがブロードウェイ。イヴがマーゴに薬を盛る場面で黒ずくめの奴らが出てきますが、「Show must go on」と歌う彼らこそがこのミュージカルの主役、ブロードウェイの魔力なのでしょう。

 

 純朴だったノーマも最終的にはブロードウェイの魔力に取り込まれてしまいますが、そのきっかけを作ったのがスタンです。実際にはもう覚悟は出来ていたノーマにマリリン・モンローという名前を与えるきっかけを作ったのがスタンですが。私はスタンを嫌いになれないんですよね。ブロードウェイを操る者としてヒールであることを自らに課しているようなスタンもこの街に狂わされた人間のひとりだと感じるからです。おそらくだけどマーゴが今の地位まで昇りつめたのもスタンのおかげだろうし、同じようにイヴに対して世代交代を促した。そしてマリリンも、といった具合にブロードウェイの血を循環させていく。ブロードウェイという街を生かすシステムの一部となってしまっています。悲しいことに、ブロードウェイで長く生きてきたとしても、やっていることは同じことの繰り返しでしかない(スタン結構長生きしてますよね)。そのようなスタンの役回りと共に、彼の悪役ぶりに冷酷さを与えている鋭い視線と白く整った歯並び、そして紳士然としたビシッと決まったダンス。それは吸血鬼を彷彿とさせます。不死の鬼としてブロードウェイを生かし続けるためにゴシップを量産する役目を担うスタンも、ある意味ブロードウェイの魔力に狂わされた人間のひとりであり、そこに悲しみを感じてしまいます。

 

 キャストABを両方観て、大きな違いといったらマーゴとイヴなのですが、どちらも素晴らしかったという身も蓋もない感想になってしまいます。最初に観たのがBだったので、花陽みくさんのイヴの変化に息を呑むほど衝撃を受けました。本当に怖かった。マーゴ役のお二方も会場中の心を一気に引き寄せる歌が素晴らしかった。A千穐楽のカーテンコールでマーゴ役の七瀬りりこさんが挨拶したのですが、マーゴとは全然違うおっとりした微笑ましさがあって、役との落差にびっくりしました。七瀬りりこさんは元宝塚ということで、私も何度か宝塚を観劇したことがあるのですが、宝塚の人の役と本人のギャップの大きさにいつも驚かされます。劇中でとても凛々しく堂々としていた男役の方が、最後の挨拶ではゆるふわな挨拶で周囲が助ける場面に遭遇したこともあり、しかしそれもまた魅力なんですよね(単に公演を終えて疲れていただけの可能性もある)。そんな宝塚の記憶が七瀬りりこさんの千穐楽の挨拶で思い出されました。別に宝塚に限った話ではないのかもしれないけれど、特に宝塚は演じる役と本人のギャップの大きさに驚かされます。

 

 最後にまとめる前に、ここで本筋から少し離れます。マーゴはブロードウェイで生き続けるうちに失ってしまった自分自身をジャックの愛によって取り戻します。マーゴを愛しながらずっと見続けていたジャック。彼を見ながら、私は最近よく聴いていたある曲を思い出していました。それはイルリメの『トリミング』という曲です。何故この曲を最近よく聴いていたかというと、HKT48の新曲『君とどこかへ行きたい』と通じるものがあるからです(私は『トリミング』が大好きで様々なことをこの曲に結び付けます)。サビがいいんですよ。

 

 

www.youtube.com

 

 

見せておきたい景色がずっと募って

写真じゃ切り取りきれないから

話せば白々しくなるから

連れて行きたい気持ちになります

 

しかし今回思い出したのは2番の歌詞です。

 

だけども支えている片腕を

見てられない人がいて

見慣れてる人がいて

見破ってる人がいて

見送ってる人がいる 

 

 マーゴとジャックの2人を観ながら、ジャックのように愛をもって見守り続けてくれる人がいることは尊いなと改めて思いました。基本的に飽きっぽい私も、誰かをずっと見続けたりまたは見られたりすることが今後あるのだろうかと、この曲を聴く度に思うことを舞台を観ながら再び考えました。またアイドルについて、例えば努力に対して結果が伴わないときでも、ファンは必ず頑張りを見てくれていると言われることがよくあります。アイドルは見てくれている人が必ずいるので、それだけでも僥倖だなと思います。特に豊永阿紀さんも所属するHKT48は活動歴も長いので、長くファンを続けている人はすごい。マーゴとジャックの関係から『トリミング』を思い出し、アイドルオタクの古参について考えが及んだけど、結局うまくまとまらなかった

 

 

f:id:kiyc:20210610213023j:plain

数年ぶりのCBGK、私にとってのCBGKはTPDですね。

 

 

 

 素晴らしいミュージカルでした。様々な人間を魅了させるブロードウェイという街を、素晴らしい歌を通して作り上げていました。個人的な願望としては、マーゴとイヴとノーマの3人で『チャーリーズ・エンジェル』よろしくスタンをぶっ倒してくれたら爽快だったのですが、まずはそれぞれの幸せですよね。もう本当に皆幸せになってほしい(アイドルを見ているときと同じ感想)。トムとは別れてしまったけど、マリリンは自分を愛してくれる人と出会えるだろうか。久しぶりに生で観たミュージカルで、本当に観に行けてよかった。素晴らしい作品をありがとうございました。

 

 

 

ameblo.jp