人の繋がりを思い出させる鍵となった『不本意アンロック』

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 人はひとりでは生きていけないとはよく言われることだけれど、つい忘れがちなことの筆頭でもある。出前館で美味しいご飯が食べられるのは、運ぶ人だけでなく、どこかでそれを調理した人がいるからだ。コロナ禍で人と人の距離が離れざるを得ない現在の状況は、その忘れそうなことに今一度気付かさせてくれる時間なのかもしれない。

 

 脆く見失いそうな関係に光を当て、星と星を繋げて星座を描くように、ネット空間に浮かび上がらせた物語、それが劇団ごりらぐみの『不本意アンロック』だ。

 

 それぞれが心許ない、もしくは既に切れた関係でしかなかった5人が、最後にはひとつのzoomを共有する。ひとりの心の変化が世界を救う。そのキーパーソンは佳だが、佳に気付かせ、自覚させるのはエニシであり周りの4人だ。

 

 誰もが誰かのキーパーソンだ。そのことを観る者に気付かせてくれる。孤独ではないと知り、誰もが星座の一部となる。それは優しい世界だ。

 

 偶然だけれど、舞台の公演期間中に観た映画『すばらしき世界』とも通じるものが感じられて、映画の後はそれまでより解像度が高く観られた。

 

 どちらもコミュニケーションのぶつかり合いを経て、行き違いを乗り越えていく。やり直しが効くことは人を諦めさせない。そして繋がりが、このやるせない世界の崖っ淵から救ってくれる。『すばらしき世界』において人々の善意の網が主人公を社会からこぼれ落ちることを防いだように、こちらではエニシが引き寄せた人々が言葉を尽くし合い、佳が変わり、鍵を開ける。どちらも繋がりが人を救う。私も佳に救われる。

 

 人は見たいものしか見えないし、聞きたい言葉しか聞こえないので、この感想だって作品が伝えたかったものと私が受け取ったものはすれ違っている。わかりあえなくて当たり前という認識に身を委ねている自分には、この作品は希望に溢れていて、とても眩しく目に映る。でもそんな醒めた自分にも力強さが響いてくる。

 

 『不本意アンロック』は誤解によって離ればなれになってしまった人達のやり直しの物語だ。脚本の豊永阿紀さんは、彼女の本職であるアイドルにおいて、作品内の強制シャットアウトのようにファン次第で一方的にコミュニケーションを切られることもあると、自身の立場から言及している。その無力な私達にチャンスを欲しいという思いもあるのかもしれない。あらゆる数字の語呂合わせから選ばれた「以後よろしく」には、末長い関係を続けたい希望が感じられる(関わる全員が全員いい人であればね)。

 

 最後にエニシは「次はあなたが開ける番」と言って鍵をこちらに渡す。私が誰かのキーパーソンになる。これからどういう未来に進んでいくのか。背中を押す手を感じながら、私はスマホから顔を上げる。素晴らしい作品をありがとうございました。

 

 

 

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