2021年に『わたしの星』を観ること

 『わたしの星』という舞台があります。ままごとという劇団がバックアップし、オーディションで選ばれた高校生が演じる作品です。初演は20148月。三鷹市芸術文化センター星のホールで上演されました。この『わたしの星』が私は大大大好きなのですが、この度配信サービスで観れるようになりました。ありがとう!! うれしい!!(ちなみに昔NHK BSでも放送されました)

 

 

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拝啓 Spica
お元気ですか。新しい星の生活には慣れましたか。
あなたがこの星を発ってから、こっちはずっと夏のまま。
星空を見るとつい、あなたを探してしまいます。
星に引力があるように、人にも引力がある。
わたし、あなたのことが大好きで、大嫌いでした。
この手紙が届くころ、あなたは夜空のどこにいるでしょう。
たとえ、どれだけ離れても、あなたはずっとわたしの星。

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 『わたしの星』は同じままごとの『わが星』をベースにした作品なので『わが星』の説明も必要ですね。ままごと『わが星』は2009年初演、第54岸田國士戯曲賞を受賞した作品です。

 

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 人の一生と星の一生を重ね合わせ、ラップとダンスでリズムよく畳み掛けてくる、演劇というよりミュージカルといった作品です。今回『わが星』も同時に配信開始されました(2015年の再々演ですが)。

 

 この『わが星』を高校生のため、高校演劇用に作り直したのが『わたしの星』です。作り直したといっても『わが星』と『わたしの星』は全く別の作品となっています。両作品とも戯曲が公開されているので興味ある人は読んでみてください。『わたしの星』は高校生向けに作られたこともあって、実際にいくつもの高校でこの戯曲を使って『わたしの星』が上演されています。

 

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 ままごとでも『わたしの星』は何回か再演しています。今回配信開始された初演が2014三鷹、次が2017三鷹2018年台湾、2019年大阪と4回上演されています。公演自体は2019年を最後に(ままごととしては)やってないですが、今年公開された映画『花束みたいな恋をした』で『わたしの星』が出てきて、一部界隈で盛り上がってました。私も三鷹星のホールで絶対に絹さんとすれ違っていた。

 

 まあ自分なんかが長々と述べるよりも、わかりやすく魅力を伝えるものとして、まず作品のビジュアルを見てください。『わたしの星』は写真家の濱田英明氏がビジュアル撮影を担当しています。以下のリンク先や『わたしの星』などで検索すると見つかるので見ていただきたいんですが、本当に素晴らしい。世界観を静かに、しかし確実に伝えるこれらの写真あってこその『わたしの星』です。写真の雰囲気が好きなら舞台も楽しめると思います。

 

2014年はいい感じの写真まとめが見つかりませんでした…。

 

 

2017年

natalie.mu

 

 

2019年

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 『わたしの星』の舞台は遠い未来の地球。人類のほとんどが火星に移住し、地球の滅亡がカウントダウンされている世界です。ずっと夏が続く地球の、文化祭を控えたある高校で、生徒の一人であるスピカが火星に行ってしまうことを巡る夏の物語です。近づいたり離れたり、人と人の関係を星座のように繋いで描き出します。台湾版は観てないので詳しい内容はわからないのですが、日本での公演は話の大枠こそ同じでも細部は公演毎に異なっていて、ほぼ別の作品となっています。

 

 夏の物語です。冒頭から蝉の鳴き声が響きます。エヴァの世界と同じく、こちらの世界もずっと夏。その中で高校生達が精一杯生きます。

 

 この舞台はオーディションで選ばれた高校生が演じます。参加資格に高校生であることが明記されており、高校生が高校生を演じることが重要となっています。おそらく現実でも将来に悩む年代の出演者達が、舞台の上でも自分達の未来について考え悩みます。

 

 出演者は春頃から少しずつ稽古していきます。脚本の柴幸男氏は、ワークショップや稽古など皆で顔を合わせる時間を通して、演者の性格などを汲みとって台本に反映させています。最初から脚本家の頭の中に完成された台本があるわけではなく、高校生達と一緒に作っていく感じです。つまりあてがきなのですが、実際に演じられる舞台を観ると、演者に近しい台本によって様々な見方が生まれます。

 

 好きすぎて毎回何回も通い続けた『わたしの星』ですが、私から見えた『わたしの星』は、ひと夏の高校生の青春でした。

 

 この作品のために全国から集まった高校生は(スタッフにも高校生がいます)、公演に向けて一致団結し、全ての公演が終わったら解散します。三鷹に集まり、夏の輝く星々となった彼らは、やがてそれぞれの高校生活に戻る。夏の終わりと舞台の終わりがシンクロし、とてつもなくエモーショナルな場が出現します。この振り返ると刹那としか言いようがない時間は、まさに青春です。

 

 単純に舞台としても面白いのですが、この背景を知っているとさらに作品が深く楽しめると思います(このようなコンテキスト重視の見方がオタクっぽいのは自覚してます)。公演を観続けると(普通は何回も観ない)、一緒に泣き笑いしている高校生達も千穐楽が終わったらみんな散り散りになってしまうのかと想像してしまい、夏よ終わらないでくれと祈りたくなってしまいます。

 

 観続けているとわかってくるのは、彼らがかなり意識的に青春しているということです。青春というと、その時期がとうに過ぎ去った大人が押し付けがましく言う印象を抱きがちですが、この情報に溢れた現在では若い当人達もその点に自覚的です。若者と大人が相互フィードバックしあって青春の強度を強めているのが今といえます(この分け方も雑ですが)。この大人が作る青春イメージに若者が乗っかって、さらにそれに大人がエモくなって、といったループが苦手な人もいると思います(例えばアイドルとか清涼飲料水のCMとかですね)。

 

 ただ『わたしの星』は、その自覚的な青春に嫌味がない(推し補正?)。少なくとも私には、この作品と作品を巡る高校生達の人生は眩しいほどにキラキラしていました。それは演劇というフォーマットでリアルに対面しているからこそ伝わるものなのかもしれません(だとすると配信で観た場合は?)。ありきたりな表現でしか言えないのですが本当にキラキラしているんですよね。

 

 しかし作り手側の大人も、こうも単純に高校生の青春を提示するだけでいいのかと疑い始めたようで、2019年の大阪公演では安易に感動させないようなストーリーとなっていました。同年代が観るならともかく、大人が若者の青春に触れることに対しての自制がありました。2019年版だけはDVDも出ているので観れる機会がある人は観てほしいです。

 

 『わたしの星』の魅力がどこまで伝わったかわからないですが、配信開始されたこの機会に是非観てほしいです。特に若い人に。これは未来の話であっても、画面に映るのは2014年という過去の時間で、当時と全く状況が違うコロナ禍の今の若い人達に何が伝わるかはわからない。それでも久しぶりに観た私は、時間が経っても風化しない普遍的な光を感じました。今観ても素晴らしかった。夏の終わりに相応しい作品です。1週間の視聴期間で550円。サブスクでも観れます。観て何か感じ取ってくれたら幸いです。

 

 

v2.kan-geki.com

theater-complex.jp

 

 

 『わたしの星』は高校生スタッフがずっと稽古記録をつけていて、いくつか公開もされているので興味があったら見てみてください。HKT48の劇はじもこういう稽古記録を見たかったな。

 

2017年の稽古記録

myplanet2017.amebaownd.com

 

2017年のインスタグラム

https://www.instagram.com/myplanet_mamagoto/

 

2019年の稽古記録

読売テレビプロデュース『わたしの星』

 

2019年のインスタグラム

https://www.instagram.com/watahoshi2019/

 

 

当時の自分の感想もついでに載せておきます(ネタバレ&長文注意)。

 

yuribossa.hatenablog.com

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