アイドルの演劇製作リアリティーショーとして見る #劇はじ

 HKT48 #劇はじ というオンライン演劇のプロジェクトを現在進めている。HKT48メンバーが演者だけでなく裏方スタッフ含めて全て担当するのが今回の特徴的な取り組みだ。もう運営は要らない。私達だけでやる。そんな気概がある。220日の初日を目指して絶賛稽古中だが、既に満身創痍といった状態。みんな頑張りすぎていて、倒れないでと祈っている。

 

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 SNSを通して日々作品作りの現在進行形の空気がこちらに伝わってくる。先日はそのドキュメンタリーの初回がYouTubeにアップされた。

 

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 公演の情報や裏話がSNSでたくさん発信される状況において、HKT48による演劇を楽しみに待つ気持ちよりも、HKT48が演劇を作り上げる過程そのものがコンテンツになってしまっている。それはオーディションや選抜発表というステージ裏もコンテンツにしてしまいがちなアイドルの、アイドルらしい演劇との向き合い方でもある。

 

 メンバーが任される役職はプロデューサーだったり演出家だったり、ほとんどのメンバーが普段では経験出来ない仕事をしている。これらもある意味演じているわけで、現実が物語になってしまっている。台本はないが、この役職ならばこう振る舞うべきだろうなと各々が考えて動いている。作品自体も劇中劇のような位置に置くことも出来る。現実が限りなく演劇的になり、私が見ているのは現実なのか物語なのか曖昧に思えてくる。

 

 同じような感情に最近なったなと思い出したら、乃木坂46の新曲『僕は僕を好きになる』のMVだった。どこまでも何かを演じているMVの中の乃木坂46は、当の乃木坂46だけでなく今のHKT48にも重なる。

 

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 ドキュメンタリー第0話の冒頭で、田島芽瑠さんは「48グループ自体がもう後退しているように思われてるけど」と述べているが、それはつまり秋元康的な価値観が時代にそぐわなくなったのであって、48グループも坂道グループも根幹に関わる部分なので立ち位置は同じだ。しかしそれでも乃木坂46は「演技」を通して、AKB48に代表されるアイドルの旧弊なイメージやコードとは別の視点からアイドルの良さを実践していると、最近読んだ香月孝史『乃木坂46ドラマトゥルギー』に書かれていた(読み違えていたらごめんなさい)。

 

 乃木坂46と同じことがHKT48でも可能ではないか。#劇はじ の宣言である「アイドルを、塗り替えろ。」は、乃木坂46の実践とも繋がってくる。#劇はじ という物語化された現実を生きることで、HKT48が変わっていくのではという予感がある。HKT48も以前から大人のカフェなどで演劇仕事をやっているが、#劇はじ でグループ全体を巻き込むことでどうなるのか。乃木坂46に倣うのがHKT48に相応しいのかはわからない。それでも #劇はじ はHKT48を塗り替える可能性を感じる。

 

 変わるのがいいことなのか、それはわからない。HKT48ぐらいの長い活動経験があると、変わらずに続けていくことの大切さも知っているだろうし。しかしドキュメンタリーでも田島芽瑠さんが言っていたように、「いま自分ができることを最大限に頑張っていかないと、このままじゃ普通に終わる」わけで、#劇はじ がそのきっかけになるのかもしれない。まあ何を今更自分のような新参に言われたくはないだろうけれど。

 

 ただし #劇はじ はドキュメンタリー第0話を見る限り、今後の展開も悩み苦しんでいる姿を見せて感動を誘うように予感されて、アイドルの苦しみを美化して消費する流れになったら辛いなと思う。正直、頑張っているから素晴らしいという賛美にしたくない。他にも、一歩間違うと自己啓発っぽくなってしまいそうなのが危ういなと感じている。

 

 一方で山下エミリーさんによるドキュメンタリー #エミはじ は淡々とだが優しさのある視点で #劇はじ を捉えている。どれだけHKT48 #劇はじ を演じようとも、アイドルの日常の延長上に彼女達は生きていることを #エミはじ は語っていて、エミリーさんの見守る視線に救われる。

 

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 #劇はじ を私はとても楽しみにしている。メンバー全員必死に頑張っているのがすごく伝わってきて、だからなのか、期待すればするほど不安も大きくなる。好きなアイドルが全力で作り上げたものがノットフォーミーだったらどうしたらいいのか。特に私は豊永阿紀さんが好きなので、『不本意アンロック』の脚本が自分に合わなかったらと不安で不安で、豊永さんも不安だと思うけれど私も不安です。なので祈るような気持ちで初日を待っている。

 

 とにかく #劇はじ が無事に成功することを願っています。